2010年11月05日
きまぐれテニス小説 『30-40』 ①
きまぐれ テニス小説 『30-40』
第 1 話 会社帰りに寄ります
ストリングショップ と カフェ が 一つになったテニスカフェ“ ふらりんこ ” の夕美絵さんから
ケータイ電話に連絡が入ったのは、仕事の昼休み。
立ち食いそば屋の、外にせり出しているカウンターで、道行くサラリーマンに、何を食べてい
るのかと、ジロジロ見られながら、きつねうどんをハフハフほおばっている時だった。
「 はひ、もひもひ・・・ 」
「 ゴーセン の エッグパワー 入荷したわよ、張ってみる? 」
「 ぶほっ! 」
うそっ! と言ったつもりだったんだけど、熱いうどんがのたうっ
てる口では、無理があった。
えっ? なんだって? と電話の向こうで夕美絵さんが叫んでる
のを聞きながら、
「 お、おひかえひ、れんわひまふ 」
と言って、申し訳ないと思いながら、一方的にケータイを切った。
ここのうどんは、ツユが美味い。刻んだゆずをひとかけら浮かしてあるところも心憎い。
これは熱いうちに食べなくっちゃ、美味さ半減。
いつもは、きっちり 6分で食べ終わるところを、エッグパワーのことが気になり、4分半で
ツユまで飲みきった。
身体の内側から、ドッ! と汗が吹き出てくるのを感じながら、人通りのない細い路地に
進んで、“ ふらりんこ ” に折り返しの連絡 を入れた。
ワンコールでつながると、
「 はひ、ふはひんほへふ 」
と、お返しの第一声をお見舞いされた。
夕身絵さんは、こういう冗談をやる人なのだ。
「 はい、はい、先程は大変申し訳ございませんでした。熱いうどん食べ始めたばっかりの
タイミングだったんです、スミマセン 」
「 もー、しょーがないなー。許すわよ。で? 」
「 GOSEN の エッグパワー って 10月末の発売予定でしたよね。いつも2週間遅れの
入荷が当たり前なのに、めずらしく早いじゃないですかー! 」
「 うるっさいわね、ひと言多いってば。量販店に持ってかれちゃって、ウチみたいな小さな
お店には、初回出荷が回ってこないんだから仕方ないでしょー。せっかく親切に一報を
入れてあげてるのに憎たらしいんだから。さぁ、張るの、張らないの? 単張り 5個入っ
たけど、あと 2個しかないから、張るなら意思表示! 」
「 そりゃぁ、もちろん! あっ、そういえば、あれってゲージ 2種類でしたよね 」
「 ゴメン、17のほうしか入ってないんだー。17っていうのは、
1.22~1.24のほう。で、色はイエロー。ちなみに 16は、
1.30~1.32で オレンジ 」
「 17のほうが、16より細いんだ? なんか頭がこんがらがりそう。
でも、自分は、17のほうで。いつも使ってるプロハリツアーの
1.25に太さも色も近そうだし 」
「 オッケー。……んー、だけど、ただひとつ気になってるのよねー。
前回張ってから、まだ間もなかったわよね、確か 」
「 ひひひ、それなら大丈夫。おとといのナイター練習で切れましたから! 」
「 おっ、学生並みじゃない? 張って間もないポリを切っちゃうなんて 」
「 いや、それが完全なオフショットで。ナイターってボール見えないんですもん 」
「 見えないけどこの辺だろ、エイッ!て振ったら・・・ 」
「 ブチッ! と音がした 」
「 なるほど。じゃ、早く持っといで~ 」
「 あい。じゃ、今日、会社帰りに寄ります 」
ケータイを閉じると、何だかワクワクしてきた。
テニス雑誌の広告で気になっていたストリング、GOSENの エッグパワー を発売早々の
タイミングで張れるなんて。
エッグパワーは、ゴーセン独自の 「 特殊楕円形断面 」 構造を採用した共重合ポリエステル
モノフィラメント特殊加工のストリング。
なんだか難しそうだけど、要するに形状を楕円形にしたことで、ボールとの接触面積が広がり、
さらに特殊加工を施すことで、摩擦係数を高め、スピン性能がアップした、って話らしい。
加えて、反発性も高めたことで、打ち出しの速いスピードボールがストレートに近い軌道を
生み出し、スピンによってボールが沈む 「 エッグボール 」 を実現するというもの。
自分の打球が、今まで以上にスピンがかかり、しかも球速や弾道までも強さを増せば、練習
も試合も楽しみになろうってもんだ。
昼休みを終えて、仕事に戻ってからも、珍しく目をキラキラさせながらPCの前に座り、楽しくて
しょうがない、ってな顔でキーボードを叩いていた。
心そこにあらず。気持ちは、すでに “ ふらりんこ ” に向かっていた。
( きまぐれで? ) つづく
● 「 第2話 2010 世界バレー 」 は、こちらからお読みいただけます。
第 1 話 会社帰りに寄ります
ストリングショップ と カフェ が 一つになったテニスカフェ“ ふらりんこ ” の夕美絵さんから
ケータイ電話に連絡が入ったのは、仕事の昼休み。
立ち食いそば屋の、外にせり出しているカウンターで、道行くサラリーマンに、何を食べてい
るのかと、ジロジロ見られながら、きつねうどんをハフハフほおばっている時だった。
「 はひ、もひもひ・・・ 」
「 ゴーセン の エッグパワー 入荷したわよ、張ってみる? 」
「 ぶほっ! 」
うそっ! と言ったつもりだったんだけど、熱いうどんがのたうっ
てる口では、無理があった。
えっ? なんだって? と電話の向こうで夕美絵さんが叫んでる
のを聞きながら、
「 お、おひかえひ、れんわひまふ 」
と言って、申し訳ないと思いながら、一方的にケータイを切った。
ここのうどんは、ツユが美味い。刻んだゆずをひとかけら浮かしてあるところも心憎い。
これは熱いうちに食べなくっちゃ、美味さ半減。
いつもは、きっちり 6分で食べ終わるところを、エッグパワーのことが気になり、4分半で
ツユまで飲みきった。
身体の内側から、ドッ! と汗が吹き出てくるのを感じながら、人通りのない細い路地に
進んで、“ ふらりんこ ” に折り返しの連絡 を入れた。
ワンコールでつながると、
「 はひ、ふはひんほへふ 」
と、お返しの第一声をお見舞いされた。
夕身絵さんは、こういう冗談をやる人なのだ。
「 はい、はい、先程は大変申し訳ございませんでした。熱いうどん食べ始めたばっかりの
タイミングだったんです、スミマセン 」
「 もー、しょーがないなー。許すわよ。で? 」
「 GOSEN の エッグパワー って 10月末の発売予定でしたよね。いつも2週間遅れの
入荷が当たり前なのに、めずらしく早いじゃないですかー! 」
「 うるっさいわね、ひと言多いってば。量販店に持ってかれちゃって、ウチみたいな小さな
お店には、初回出荷が回ってこないんだから仕方ないでしょー。せっかく親切に一報を
入れてあげてるのに憎たらしいんだから。さぁ、張るの、張らないの? 単張り 5個入っ
たけど、あと 2個しかないから、張るなら意思表示! 」
「 そりゃぁ、もちろん! あっ、そういえば、あれってゲージ 2種類でしたよね 」
「 ゴメン、17のほうしか入ってないんだー。17っていうのは、
1.22~1.24のほう。で、色はイエロー。ちなみに 16は、
1.30~1.32で オレンジ 」
「 17のほうが、16より細いんだ? なんか頭がこんがらがりそう。
でも、自分は、17のほうで。いつも使ってるプロハリツアーの
1.25に太さも色も近そうだし 」
「 オッケー。……んー、だけど、ただひとつ気になってるのよねー。
前回張ってから、まだ間もなかったわよね、確か 」
「 ひひひ、それなら大丈夫。おとといのナイター練習で切れましたから! 」
「 おっ、学生並みじゃない? 張って間もないポリを切っちゃうなんて 」
「 いや、それが完全なオフショットで。ナイターってボール見えないんですもん 」
「 見えないけどこの辺だろ、エイッ!て振ったら・・・ 」
「 ブチッ! と音がした 」
「 なるほど。じゃ、早く持っといで~ 」
「 あい。じゃ、今日、会社帰りに寄ります 」
ケータイを閉じると、何だかワクワクしてきた。
テニス雑誌の広告で気になっていたストリング、GOSENの エッグパワー を発売早々の
タイミングで張れるなんて。
エッグパワーは、ゴーセン独自の 「 特殊楕円形断面 」 構造を採用した共重合ポリエステル
モノフィラメント特殊加工のストリング。
なんだか難しそうだけど、要するに形状を楕円形にしたことで、ボールとの接触面積が広がり、
さらに特殊加工を施すことで、摩擦係数を高め、スピン性能がアップした、って話らしい。
加えて、反発性も高めたことで、打ち出しの速いスピードボールがストレートに近い軌道を
生み出し、スピンによってボールが沈む 「 エッグボール 」 を実現するというもの。
自分の打球が、今まで以上にスピンがかかり、しかも球速や弾道までも強さを増せば、練習
も試合も楽しみになろうってもんだ。
昼休みを終えて、仕事に戻ってからも、珍しく目をキラキラさせながらPCの前に座り、楽しくて
しょうがない、ってな顔でキーボードを叩いていた。
心そこにあらず。気持ちは、すでに “ ふらりんこ ” に向かっていた。
( きまぐれで? ) つづく
● 「 第2話 2010 世界バレー 」 は、こちらからお読みいただけます。
コメント
この記事へのコメントはありません。