2010年11月17日
きまぐれテニス小説 『 30-40』 ④
きまぐれ テニス小説 『30-40』
第 4 話 エッグパワー17 の色合い
「 張りあがったわよー 」
“ ふらりんこ ” のカフェスペースで、千冬と 『 世界バレー 』 を見て
いると、ストリンガーの夕美絵さんが、たった今、奥のストリンキング
スペースで張り上げたばかりのラケットを持って来てくれた。
きちんと張り上がったストリングは、ラケットを丸ごとリフレッシュした
かのように美しく見せてくれる。
「 うわぁ、これがゴーセンのエッグパワー17 ですかー。今すぐに打
ちたい感じです。どうもありがとうございます 」
受け取りながらお礼を言うと、夕美絵さんは、ちょっと心配そうに聞い
てきた。
「 色は、どう? いつものプロハリケーンツアーとは、ちょっと違う
イエローなんだけど 」
「 ほんとですね、プロハリケーンツアーが蛍光塗料っぽい黄色、もしくは
レモンイエロー だとすると、エッグパワー17 は、山吹色にも近い様な、
いわゆる黄色、しっかり色ののった濃い目の黄色って感じですね。でも、
問題ないですよ」
( 画像 右上から エッグパワー、プロハリケーンツアー )
「 そう? それなら良かった 」
すると、すぐ横で会話を聞いていた千冬が、興味津々に身を乗り出して来た。
「 なに、なに、なに、もしかして エッグパワーって、ゴーセンから出た、誰でもエッグボールが打
てて、誰でも ナダルになれゃうっていうやつ? 」
「 千冬、お前、話が飛躍し過ぎだから。スピン性能と反発性を高めたことでエッグボールを実現
するってキャッチであって、誰でもエッグボールが打てるなんて言ってないし、ましてナダルに
なれちゃうなんて、パッケージのどこにも書いてないから! 」
「 あ、そーお? そーだっけ? まぁ、ともかくどんな打ち応えか、楽しみだろ。でも、見たところ、
オレには、何の変哲もない、ただの黄色いポリエステルストリングに見えるけどなぁ 」
千冬の疑問に、夕美絵さんが答えた。
「 そうね。確かに断面が特殊な楕円になってはいるんだけど、張った外見は目立たないかもね。
でも、よーく目を凝らして見ると、まっすぐな直線じゃなく、押しつぶされた様ないびつさが、部分
部分で見て取れるでしょう。わかりづらいかなー 」
「 どれどれ? 」
ラケット面を一枚隔てて、僕と千冬は、まじまじとストリングを覗き込んだ。
よく確かめようとするほどに、二人の顔は互いにラケットに近づいていき……
「 バカ、近いよ! 」
二人で同時に叫んで、ラケットから顔を離した。結局、いびつさは、よくわからず終いだった。
僕らの様子を笑顔で見ていた夕美絵さんが言った。
「 それじゃぁ、良かったらそのエッグパワーの感想、お願いね、出来上がったらファイリングさせて
もらうから 」
「 わかりました。早速、明日から使ってみて、どんなストリングか自分なりにつかめたところで書い
てみます 」
そう言って、明日を楽しみにしながらラケットをしまい、夕美絵さんと千冬と一緒に 『 世界バレー 』
に目を移した。
カフェのアルバイトを終えたばかりの奈保ちゃんも、夕美絵さんの分の珈琲を運んで来て加わり、
他にお客さんがいなかったこともあって、時に声を出し、手を叩きながら試合終了まで観戦した。
結局、日本代表チームが勝利をあげたのを見届けて、僕らはそれぞれの帰路に着いた。
帰り道、外の空気は、昼間と比べてひんやりしていたけれど、日本チームの熱いプレーの余韻が
残っているせいか、むしろ心地良く感じた。
日本選手たちは、いきいきとプレーしていたし、コートの中の木村沙織選手は、特に輝いて見えた。
自分は、試合であんな風にいきいきとテニスをできているだろうか。
ふと、そんなことを思って夜空を見上げると、冷えた空気の中、星が幾つも煌いていた。
( きまぐれで ) つづく
● 「 第1話 会社帰りに寄ります 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「 第2話 2010 世界バレー 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「 第3話 栗原恵と膝サポーター 」 は、こちらからお読みいただけます。
第 4 話 エッグパワー17 の色合い
「 張りあがったわよー 」
“ ふらりんこ ” のカフェスペースで、千冬と 『 世界バレー 』 を見て
いると、ストリンガーの夕美絵さんが、たった今、奥のストリンキング
スペースで張り上げたばかりのラケットを持って来てくれた。
きちんと張り上がったストリングは、ラケットを丸ごとリフレッシュした
かのように美しく見せてくれる。
「 うわぁ、これがゴーセンのエッグパワー17 ですかー。今すぐに打
ちたい感じです。どうもありがとうございます 」
受け取りながらお礼を言うと、夕美絵さんは、ちょっと心配そうに聞い
てきた。
「 色は、どう? いつものプロハリケーンツアーとは、ちょっと違う
イエローなんだけど 」
「 ほんとですね、プロハリケーンツアーが蛍光塗料っぽい黄色、もしくは
レモンイエロー だとすると、エッグパワー17 は、山吹色にも近い様な、
いわゆる黄色、しっかり色ののった濃い目の黄色って感じですね。でも、
問題ないですよ」
( 画像 右上から エッグパワー、プロハリケーンツアー )
「 そう? それなら良かった 」
すると、すぐ横で会話を聞いていた千冬が、興味津々に身を乗り出して来た。
「 なに、なに、なに、もしかして エッグパワーって、ゴーセンから出た、誰でもエッグボールが打
てて、誰でも ナダルになれゃうっていうやつ? 」
「 千冬、お前、話が飛躍し過ぎだから。スピン性能と反発性を高めたことでエッグボールを実現
するってキャッチであって、誰でもエッグボールが打てるなんて言ってないし、ましてナダルに
なれちゃうなんて、パッケージのどこにも書いてないから! 」
「 あ、そーお? そーだっけ? まぁ、ともかくどんな打ち応えか、楽しみだろ。でも、見たところ、
オレには、何の変哲もない、ただの黄色いポリエステルストリングに見えるけどなぁ 」
千冬の疑問に、夕美絵さんが答えた。
「 そうね。確かに断面が特殊な楕円になってはいるんだけど、張った外見は目立たないかもね。
でも、よーく目を凝らして見ると、まっすぐな直線じゃなく、押しつぶされた様ないびつさが、部分
部分で見て取れるでしょう。わかりづらいかなー 」
「 どれどれ? 」
ラケット面を一枚隔てて、僕と千冬は、まじまじとストリングを覗き込んだ。
よく確かめようとするほどに、二人の顔は互いにラケットに近づいていき……
「 バカ、近いよ! 」
二人で同時に叫んで、ラケットから顔を離した。結局、いびつさは、よくわからず終いだった。
僕らの様子を笑顔で見ていた夕美絵さんが言った。
「 それじゃぁ、良かったらそのエッグパワーの感想、お願いね、出来上がったらファイリングさせて
もらうから 」
「 わかりました。早速、明日から使ってみて、どんなストリングか自分なりにつかめたところで書い
てみます 」
そう言って、明日を楽しみにしながらラケットをしまい、夕美絵さんと千冬と一緒に 『 世界バレー 』
に目を移した。
カフェのアルバイトを終えたばかりの奈保ちゃんも、夕美絵さんの分の珈琲を運んで来て加わり、
他にお客さんがいなかったこともあって、時に声を出し、手を叩きながら試合終了まで観戦した。
結局、日本代表チームが勝利をあげたのを見届けて、僕らはそれぞれの帰路に着いた。
帰り道、外の空気は、昼間と比べてひんやりしていたけれど、日本チームの熱いプレーの余韻が
残っているせいか、むしろ心地良く感じた。
日本選手たちは、いきいきとプレーしていたし、コートの中の木村沙織選手は、特に輝いて見えた。
自分は、試合であんな風にいきいきとテニスをできているだろうか。
ふと、そんなことを思って夜空を見上げると、冷えた空気の中、星が幾つも煌いていた。
( きまぐれで ) つづく
● 「 第1話 会社帰りに寄ります 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「 第2話 2010 世界バレー 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「 第3話 栗原恵と膝サポーター 」 は、こちらからお読みいただけます。