2010年11月11日
きまぐれテニス小説 『30-40』 ③
きまぐれ テニス小説 『30-40』
第 3 話 栗原恵と膝サポーター
“ ふらりんこ ” のカフェスペースに設置してある三菱の3D液晶テレビ LCD-55MDR1
で見る 『 2010 世界バレー 』 は ド迫力で、夕美絵さんが名前を挙げた木村沙織選手の
スラッとした背の高さ、江畑選手の面白いように決まるアタック、佐野選手の地面とボール
との間に手の平一枚を滑り込ませて打ち上げたミラクルなレシーブ、チーム皆の連帯感、
鮮やかなコンビネーションプレーなど、女子バレーに魅了されるのに、長い時間はかから
なかった。
なんだろう、彼女たちの、このひたむきさ。
しごかれても、しごかれても、監督やコーチを信じて声を出し、練習に
没頭する中高生の運動部の生徒達を思い起こさせるような、一点を
目指す まなざし。
率直にいいなぁ、と感じていると、右から声をかけられた。
「 よっ、何してんの 」
テレビ画面から視線を移すと、珈琲を持ちながら近づいてきた千冬だった。
千冬って、女性にも見かける名前だけど、コイツは男。
誰もが知る大手企業に勤めていることや、182cmの身長が、ちょっと羨ましかったりも
する大学からの友人だ。
別に待ち合わせをしていたわけじゃないんだけど、こんな風に不意に現れることが多いんだ、
千冬は。
「 どったの、女子バレーなんか見ちゃって。さては、さおりんの隠れファンだったとか? 」
「 いや、そういうわけじゃ…… 」
「 いいよ、いいよ、隠さなくたってー。AKBを隠れて応援してるより、
ずっといいと思うよー。さおりんの一生懸命バレーボールをやる姿、
引き込まれるもんねぇ 」
「 確かに引き込まれてるけど……、木村沙織を知ったのは、恥ずか
しながら、ついさっきだから 」
「 えぇっ? さおりんのこと知らなかったのぉ? 」
信じられないといった風に大きく目を見開いて、千冬は続けた。
「 じゃぁ、何でそんな真剣に見入っちゃってんの。昔、バレーボールやってたとか?
だとしたら初耳だけど 」
「 いや、バレーボールは、体育の時間にやったくらいだよ。トスで突き指するわ、レシーブで
腕は真っ赤になるわ、アタックでネットするわで、あんまりいい思い出ないし…… 」
「 ぷっ、散々な思い出だなぁ 」
「 そう。けど、夕美絵さんに進められて見始めたら、なんかこう、熱いものがあるよね、
バレーボールって。青春っていうか、スポ根というか、すっかりファンになっちゃったよ 」
半ば興奮気味に話すと、千冬がコーヒーカップをソーサーに静かに戻しながら言った。
「 エースの栗原恵って選手が、今控えに回ってるんだけどさ。去年の
11月に左ひざの半月板を断裂して、今年3月に手術したんだよ。
で、手術後、リハビリしながら復帰めざして、ようやく代表メンバーに
戻ってきたんだ。この試合でも出てくる場面があると思うけど 」
「 へぇ、そうなんだ 」
「 バレーボールってさ、ジャンプして、エビ反って、打ち込んで、着地して、
ってのを繰り返すからさ、腰とかひざとか痛めること、結構多いんだよ。
時には、届くかどうかのボールに飛び込んだりして。傍で見ているより、ハードなスポーツ
なんだよ 」
「 なるほど 」
「 そういえばだいぶ前、ひざ痛めたって言ってたけど、最近どうなのよ 」
千冬は、栗原恵選手の話から、僕のひざへ話を移したので、当時の事を振り返って話した。
「 ああ、ひざね。何度も水が溜っては、それを抜いてっていうのを繰り返していたら、ある日、
熱をもって普段の 1.5倍くらいに腫れちゃってさ、それが1週間くらい続いて、歩けなくなっ
ちゃって。正直焦ったけど、腫れが引いたら、ひざの違和感がなくなって、それ以来、水も
溜らなくなったんだよ。ちょっと説明がつかない不思議体験 」
「 ほぉ、そんな事があったんだ。テニスもひざを酷使するスポーツだもんな。予めサポーターとか
付けたほうかいいかもな 」
「 そう。だから、今でもハードな練習の時は、予防をかねて、これを使ってるんだ 」
そう言ってバッグから ザムスト の ひざサポーター ZK-7 を
取り出して千冬に見せ、少し説明を加えた。
「 サポートの度合いによって何種類か発売されてるんだけど、
それは一番しっかりサポートしてくれるハード。ちょっとばかり
ゴツイけど、安心感が高くて気に入ってるんだ。動きを妨げ
られる感じもないし、複数のストラップで締め具合を自在に
調節できるから 」
「 なるほど、なかなかしっかりした作りみたいだねぇ 」
ストラップの先のマジックテープをベリベリ剥がしたり付けたり
しながら僕の説明を聞いていた千冬が、うなずきながら言った。
確か、8千円以上したので、買う時は踏ん切りがいったのを覚えている。
ひざの痛みを再発させて、テニスができなくなる事を考えれば、絶対に必要な買い物だと
自分を納得させて買ったんだけど、重宝してる。
もう何度も洗ってるけど、生地の傷みも見られないし、長く使える良品だと思う。
テレビでは、バレーボールの試合が進んでいる。
千冬が ZK-7 を持つ手を止めて、画面に釘付けになったと思ったら、
ヒザの故障から手術後復帰したという栗原恵がコートに入っていた。
彼女も背が高い。
高いネットもそれほど高く感じさせない木村沙織と一緒にで映っていると、うーん、絵になる。
彼女たちが、もしもバレーボールではなく、この身長とリーチの長さでテニスを選んでいたら、
どうなっていたのだろう……、
なんて素朴な疑問が浮かんだところで、ゴーセンのエッグパワーを張ってくれていた夕美絵さん
から声がかかった。
( きまぐれで ) つづく
● 「 第1話 会社帰りに寄ります 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「 第2話 2010 世界バレー 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「第4話 エッグパワー17 の色合い 」 は、こちらこらお読みいただけます。
第 3 話 栗原恵と膝サポーター
“ ふらりんこ ” のカフェスペースに設置してある三菱の3D液晶テレビ LCD-55MDR1
で見る 『 2010 世界バレー 』 は ド迫力で、夕美絵さんが名前を挙げた木村沙織選手の
スラッとした背の高さ、江畑選手の面白いように決まるアタック、佐野選手の地面とボール
との間に手の平一枚を滑り込ませて打ち上げたミラクルなレシーブ、チーム皆の連帯感、
鮮やかなコンビネーションプレーなど、女子バレーに魅了されるのに、長い時間はかから
なかった。
なんだろう、彼女たちの、このひたむきさ。
しごかれても、しごかれても、監督やコーチを信じて声を出し、練習に
没頭する中高生の運動部の生徒達を思い起こさせるような、一点を
目指す まなざし。
率直にいいなぁ、と感じていると、右から声をかけられた。
「 よっ、何してんの 」
テレビ画面から視線を移すと、珈琲を持ちながら近づいてきた千冬だった。
千冬って、女性にも見かける名前だけど、コイツは男。
誰もが知る大手企業に勤めていることや、182cmの身長が、ちょっと羨ましかったりも
する大学からの友人だ。
別に待ち合わせをしていたわけじゃないんだけど、こんな風に不意に現れることが多いんだ、
千冬は。
「 どったの、女子バレーなんか見ちゃって。さては、さおりんの隠れファンだったとか? 」
「 いや、そういうわけじゃ…… 」
「 いいよ、いいよ、隠さなくたってー。AKBを隠れて応援してるより、
ずっといいと思うよー。さおりんの一生懸命バレーボールをやる姿、
引き込まれるもんねぇ 」
「 確かに引き込まれてるけど……、木村沙織を知ったのは、恥ずか
しながら、ついさっきだから 」
「 えぇっ? さおりんのこと知らなかったのぉ? 」
信じられないといった風に大きく目を見開いて、千冬は続けた。
「 じゃぁ、何でそんな真剣に見入っちゃってんの。昔、バレーボールやってたとか?
だとしたら初耳だけど 」
「 いや、バレーボールは、体育の時間にやったくらいだよ。トスで突き指するわ、レシーブで
腕は真っ赤になるわ、アタックでネットするわで、あんまりいい思い出ないし…… 」
「 ぷっ、散々な思い出だなぁ 」
「 そう。けど、夕美絵さんに進められて見始めたら、なんかこう、熱いものがあるよね、
バレーボールって。青春っていうか、スポ根というか、すっかりファンになっちゃったよ 」
半ば興奮気味に話すと、千冬がコーヒーカップをソーサーに静かに戻しながら言った。
「 エースの栗原恵って選手が、今控えに回ってるんだけどさ。去年の
11月に左ひざの半月板を断裂して、今年3月に手術したんだよ。
で、手術後、リハビリしながら復帰めざして、ようやく代表メンバーに
戻ってきたんだ。この試合でも出てくる場面があると思うけど 」
「 へぇ、そうなんだ 」
「 バレーボールってさ、ジャンプして、エビ反って、打ち込んで、着地して、
ってのを繰り返すからさ、腰とかひざとか痛めること、結構多いんだよ。
時には、届くかどうかのボールに飛び込んだりして。傍で見ているより、ハードなスポーツ
なんだよ 」
「 なるほど 」
「 そういえばだいぶ前、ひざ痛めたって言ってたけど、最近どうなのよ 」
千冬は、栗原恵選手の話から、僕のひざへ話を移したので、当時の事を振り返って話した。
「 ああ、ひざね。何度も水が溜っては、それを抜いてっていうのを繰り返していたら、ある日、
熱をもって普段の 1.5倍くらいに腫れちゃってさ、それが1週間くらい続いて、歩けなくなっ
ちゃって。正直焦ったけど、腫れが引いたら、ひざの違和感がなくなって、それ以来、水も
溜らなくなったんだよ。ちょっと説明がつかない不思議体験 」
「 ほぉ、そんな事があったんだ。テニスもひざを酷使するスポーツだもんな。予めサポーターとか
付けたほうかいいかもな 」
「 そう。だから、今でもハードな練習の時は、予防をかねて、これを使ってるんだ 」
そう言ってバッグから ザムスト の ひざサポーター ZK-7 を
取り出して千冬に見せ、少し説明を加えた。
「 サポートの度合いによって何種類か発売されてるんだけど、
それは一番しっかりサポートしてくれるハード。ちょっとばかり
ゴツイけど、安心感が高くて気に入ってるんだ。動きを妨げ
られる感じもないし、複数のストラップで締め具合を自在に
調節できるから 」
「 なるほど、なかなかしっかりした作りみたいだねぇ 」
ストラップの先のマジックテープをベリベリ剥がしたり付けたり
しながら僕の説明を聞いていた千冬が、うなずきながら言った。
確か、8千円以上したので、買う時は踏ん切りがいったのを覚えている。
ひざの痛みを再発させて、テニスができなくなる事を考えれば、絶対に必要な買い物だと
自分を納得させて買ったんだけど、重宝してる。
もう何度も洗ってるけど、生地の傷みも見られないし、長く使える良品だと思う。
テレビでは、バレーボールの試合が進んでいる。
千冬が ZK-7 を持つ手を止めて、画面に釘付けになったと思ったら、
ヒザの故障から手術後復帰したという栗原恵がコートに入っていた。
彼女も背が高い。
高いネットもそれほど高く感じさせない木村沙織と一緒にで映っていると、うーん、絵になる。
彼女たちが、もしもバレーボールではなく、この身長とリーチの長さでテニスを選んでいたら、
どうなっていたのだろう……、
なんて素朴な疑問が浮かんだところで、ゴーセンのエッグパワーを張ってくれていた夕美絵さん
から声がかかった。
( きまぐれで ) つづく
● 「 第1話 会社帰りに寄ります 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「 第2話 2010 世界バレー 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「第4話 エッグパワー17 の色合い 」 は、こちらこらお読みいただけます。