2010年11月08日
きまぐれテニス小説 『30-40』 ②
きまぐれ テニス小説 『30-40』
第 2 話 2010 世界バレー
カランコロン♪
ストリングショップ と カフェ が 一つになったテニスカフェ“ ふらりんこ ” の扉を開けると
いつもの鐘の音色が迎えてくれた。
古くは3階建てだったスーパーを全面改装して今風な外観に整備された1階が“ ふらりんこ ”。
2階と3階は、アパレルの事務所が入ってる。
なかなかに広いフロアは、4つのスペースに分かれていて、手前右側が カフェスペース。
ここには、55型の液晶テレビも設置してある。
大抵は、プロテニスの試合が流れていて、たまに違うスポーツも流れるけれど、その時は、
陸上くらいかな。
オーナーの考えで、野球 ・ サッカー ・ ゴルフは流さないんだって。この3つのスポーツは、毎日
のニュースの中でも見れるだろ、って。
全く同感。
大型テレビの後方、ベンジャミンで垣根を作ったその奥が、ストリングの張替えを行うスペース。
4台のマシーンがセットしてあって、常時、何台かは稼動している。
ストリンキングスペースの左側は、ストリングの販売カウンター。ここには、取り扱っているストリ
ングのファイルが用意してあって、カフェに持ち込んでゆっくり選ぶことができる。
実はこのファイル、ストリンガーさんが張る工程で気付いたことやアドバイスが載っていたり、
実際に張って使用してみたお客さんのコメント、いわゆる インプレ と呼ばれる感想や評価も合わ
せて読めるようになっていて、ひそかに人気があるファイルだ。
ストリングの販売カウンターの手前、つまりお店に入ってすぐ左側は、サイフォンが並ぶ、珈琲の
販売カウンター。
ポコポコという、サイフォンの音と、珈琲の香りがなんともリラックスのひとときを演出してくれて、
この雰囲気が気に入って、あしげく通う常連さんも多いらしい。
「 あ、いらっしゃいませ 」
入り口で、フロア内にひと回り目線を送っていると、学生アルバイトの奈保ちゃんが、珈琲カウン
ターから顔をのぞかせた。
黒髪のショートカットが似合う、よく気のきく明るい女の子だ。
「 あ、こんばんはー。奈保ちゃん、いたんだ 」
挨拶を返すと、彼女は、焙煎スイッチを押そうとする手を一旦止めて答えた。
「 はい、一週間で唯一、部活が休みの日ですから 」
「 そっかぁ、偉いなー。奈保ちゃん所のテニス部、練習厳しいのに。身体休めなくて大丈夫? 」
「 全然大丈夫です。ここに来てると楽しいですし、珈琲の香りで癒されますから 」
「 そう、それは良かった。あ、本日の珈琲を一つお願い。奥で張替え頼んで戻って来るから 」
「 かしこまりましたー 」
奈保ちゃんの笑顔に送られ、ストリングの販売カウンターに進むと、カウンター内には人の姿が
なく、ストリンキングスペースから声をかけられた。
「 おーい、こっちだよー 」
「 ああ、夕美絵さんこんばんは。作業中だったんですね 」
「 そうよー。今日はもう朝から私だけで7本目。この時期は、あちこちで大会も多いでしょう。その
せいじゃないかなー、大忙しよ 」
「 そんな状況なのに、エッグパワー入荷のご連絡をいただき、ありがとうございます 」
「 ほんとよねー。よし、7本目出来た、と。 はい、ラケット出して 」
夕美絵さんは、正式なストリンガーの有資格者で、プロの大会でもストリンキングを務めている
ほどの腕前。
そんな人に、テニスの一愛好家に過ぎない自分が張ってもらえるなんて、ありがたい。
「 あ、はい、お願いします 」
いつものことながら、ちょっと緊張しつつ、会社のロッカーから持ち帰ってきたラケットをソフト
バッグから取り出し、手渡した。
「 どうする? 1 時間くらいだけど、待ってる? それとも明日以降、取りに来る?」
「 待ってます。今、奈保ちゃんにコーヒーも頼んだし 」
「 オッケー。じゃ、カフェで世界バレーでも見てて。もう始まる頃だし。張り終わったら声かける
から 」
「 あ、今日は、バレーボール中継なんですか 」
めずらしいなと思って聞いてみると、
「 そう。私の趣味でね 『 2010 世界バレー 』。ムフ。ご覧の通り、見れないんだけど 」
手際良くストリングマシンにラケットをセットしながら、夕美絵さんは笑顔で答えた。
「 ああっ、なんか申し訳ないです。じゃ、代わりに見ときます、ははは 」
「 木村さおりん もイイんだけど、江畑って子のバックアタックいいから、あと佐野ちゃんのレシー
ブも、地味な様でファインプレーだから。注目して 」
「 はい、わかりましたー 」
木村に、江畑に、佐野? 選手の名前をポンポン出されて慌てたけど、何とか記憶し、
『 2010 世界バレー 』 が始まるという大型テレビのあるカフェスペースへ急いだ。
( きまぐれで ) つづく
● 「 第1話 会社帰りに寄ります 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「 第3話 栗原恵と膝サポーター 」 は、こちらからお読みいただけます。
第 2 話 2010 世界バレー
カランコロン♪
ストリングショップ と カフェ が 一つになったテニスカフェ“ ふらりんこ ” の扉を開けると
いつもの鐘の音色が迎えてくれた。
古くは3階建てだったスーパーを全面改装して今風な外観に整備された1階が“ ふらりんこ ”。
2階と3階は、アパレルの事務所が入ってる。
なかなかに広いフロアは、4つのスペースに分かれていて、手前右側が カフェスペース。
ここには、55型の液晶テレビも設置してある。
大抵は、プロテニスの試合が流れていて、たまに違うスポーツも流れるけれど、その時は、
陸上くらいかな。
オーナーの考えで、野球 ・ サッカー ・ ゴルフは流さないんだって。この3つのスポーツは、毎日
のニュースの中でも見れるだろ、って。
全く同感。
大型テレビの後方、ベンジャミンで垣根を作ったその奥が、ストリングの張替えを行うスペース。
4台のマシーンがセットしてあって、常時、何台かは稼動している。
ストリンキングスペースの左側は、ストリングの販売カウンター。ここには、取り扱っているストリ
ングのファイルが用意してあって、カフェに持ち込んでゆっくり選ぶことができる。
実はこのファイル、ストリンガーさんが張る工程で気付いたことやアドバイスが載っていたり、
実際に張って使用してみたお客さんのコメント、いわゆる インプレ と呼ばれる感想や評価も合わ
せて読めるようになっていて、ひそかに人気があるファイルだ。
ストリングの販売カウンターの手前、つまりお店に入ってすぐ左側は、サイフォンが並ぶ、珈琲の
販売カウンター。
ポコポコという、サイフォンの音と、珈琲の香りがなんともリラックスのひとときを演出してくれて、
この雰囲気が気に入って、あしげく通う常連さんも多いらしい。
「 あ、いらっしゃいませ 」
入り口で、フロア内にひと回り目線を送っていると、学生アルバイトの奈保ちゃんが、珈琲カウン
ターから顔をのぞかせた。
黒髪のショートカットが似合う、よく気のきく明るい女の子だ。
「 あ、こんばんはー。奈保ちゃん、いたんだ 」
挨拶を返すと、彼女は、焙煎スイッチを押そうとする手を一旦止めて答えた。
「 はい、一週間で唯一、部活が休みの日ですから 」
「 そっかぁ、偉いなー。奈保ちゃん所のテニス部、練習厳しいのに。身体休めなくて大丈夫? 」
「 全然大丈夫です。ここに来てると楽しいですし、珈琲の香りで癒されますから 」
「 そう、それは良かった。あ、本日の珈琲を一つお願い。奥で張替え頼んで戻って来るから 」
「 かしこまりましたー 」
奈保ちゃんの笑顔に送られ、ストリングの販売カウンターに進むと、カウンター内には人の姿が
なく、ストリンキングスペースから声をかけられた。
「 おーい、こっちだよー 」
「 ああ、夕美絵さんこんばんは。作業中だったんですね 」
「 そうよー。今日はもう朝から私だけで7本目。この時期は、あちこちで大会も多いでしょう。その
せいじゃないかなー、大忙しよ 」
「 そんな状況なのに、エッグパワー入荷のご連絡をいただき、ありがとうございます 」
「 ほんとよねー。よし、7本目出来た、と。 はい、ラケット出して 」
夕美絵さんは、正式なストリンガーの有資格者で、プロの大会でもストリンキングを務めている
ほどの腕前。
そんな人に、テニスの一愛好家に過ぎない自分が張ってもらえるなんて、ありがたい。
「 あ、はい、お願いします 」
いつものことながら、ちょっと緊張しつつ、会社のロッカーから持ち帰ってきたラケットをソフト
バッグから取り出し、手渡した。
「 どうする? 1 時間くらいだけど、待ってる? それとも明日以降、取りに来る?」
「 待ってます。今、奈保ちゃんにコーヒーも頼んだし 」
「 オッケー。じゃ、カフェで世界バレーでも見てて。もう始まる頃だし。張り終わったら声かける
から 」
「 あ、今日は、バレーボール中継なんですか 」
めずらしいなと思って聞いてみると、
「 そう。私の趣味でね 『 2010 世界バレー 』。ムフ。ご覧の通り、見れないんだけど 」
手際良くストリングマシンにラケットをセットしながら、夕美絵さんは笑顔で答えた。
「 ああっ、なんか申し訳ないです。じゃ、代わりに見ときます、ははは 」
「 木村さおりん もイイんだけど、江畑って子のバックアタックいいから、あと佐野ちゃんのレシー
ブも、地味な様でファインプレーだから。注目して 」
「 はい、わかりましたー 」
木村に、江畑に、佐野? 選手の名前をポンポン出されて慌てたけど、何とか記憶し、
『 2010 世界バレー 』 が始まるという大型テレビのあるカフェスペースへ急いだ。
( きまぐれで ) つづく
● 「 第1話 会社帰りに寄ります 」 は、こちらからお読みいただけます。
● 「 第3話 栗原恵と膝サポーター 」 は、こちらからお読みいただけます。